ちこういん

精進努力

お釈迦さまの精進の御説法
 
むかし、ある都で一人の菩薩が貿易商の家に生まれました。
二十歳を過ぎると、もう一人前の商人として貿易の仕事に精を出していました。
 

彼は五百頭のラクダを使って大キャラバンを組み、ラクダの背には商品を満載して都から都へ国境を越えて商売の旅を続けました。
 

その旅も終わりに近く、明日は自宅に帰りつくというとき、一つの難所である広大な砂漠に出くわしました。
砂は手のひらですくっても水のようにこぼれ落ち、太陽が昇るとその熱で火のように燃えるほどでした。



 
キャラバンは太陽が沈むのを待ち、大地が冷えるのを待って夜出発します。航海する船のように星を観測して方向を決め、闇の中の砂の海を五百頭のラクダと五百人の人々は一本の黒い帯となって渡るのです。


「隊長、風が出てまいりました。雲が乱れ飛んでいきます。この分だとやがて星の光もかき消されましょう。」


「さればといってとどまるわけにもいかぬ。」

 
キャラバンはもう砂漠の中ほどと思われるところを進んでいました。
風は強さを増し、星は光を落とし、都への道はそこで途絶えかけ、東の空が白み始め、果てしない砂の起伏が見えてくる頃、キャラバンは人もラクダも疲れ果てて太陽と熱砂に焼かれて死ぬ運命に…。


「断じて諦めてはならん。我らはこの砂漠を越えて必ず都へ帰る。まず足元をよく観察せよ。砂の上に虫の歩いた跡はないか。蛇の這った跡はないか。一粒の草の種が落ちていないか。」


隊長である菩薩は、大声で全員に語りかけます。

今ここで自分が勇気を失ったらキャラバン全体が立ち上がる勇気を失うだろう。

「隊長、これはなんでしょう?このうす緑色のものは」
「あの砂の窪みになにか芽が出ています。」

 
ラクダから降りて、二人の隊員の下に歩み寄った隊長は、仔細にそれを観察して


「吉祥草の芽だ!水の恵みがなければここに芽を出すはずはない。ここだ、この砂を掘り下げて水を手に入れよう。さあ、最後の力をだせ!」


隊員は交代で鋤をつかい、シャベルを使いました。

砂の穴は6,7メートルも掘り進みましたが水はなく、固い岩盤に出会ってしまいました。


「とても無理だぁ、水などありゃしない。力を出すだけ馬鹿馬鹿しいというもんだ。」


「骨折り損のくたびれ儲けというやつさ。隊長、もう止しましょう。それよりもラクダを一頭ずつ殺して、その胃袋の水で喉を潤したほうがずっと楽じゃありませんか」

 
隊員たちは、口々にそういって鋤やシャベルを放り出してしまいました。
 
「若者はおらぬか!」
 
列の最後尾から一人の少年が駆け寄ってきました。


「いくつになる?」


「17でございます」


「父は」


「おりませぬ」


「母は」


「おりませぬ」


「生来孤独か?」


「仲間がおります。友達がおります。この商隊全部が私の父であり、母であり、兄弟であります。」


少年は広いターバンの下から黒い澄んだ瞳をあげます。

 
[水があるなら掘ってもみるが、なければ努力するだけ損だ]という、そういうずるさに染まらない目でありました。


「500人の仲間のためにおまえの力がいる。」


「はいっ」


「このハンマーをもって穴の底の岩盤を砕け。打ち貫いても水にいたるまでその作業をやめてはならぬ」

 
少年は穴の底に降り立ち、岩盤に足場を決めるとハンマーを振り下ろします。
一回二回。鉄と岩がぶつかり火花が散りますが岩はびくともしません。
 
少年の背に汗が流れます。何十回打ち下ろされたであろう、両足にいっそうの力を入れて振り下ろしたハンマーの一撃に岩盤は亀裂を生じ、大音と共に砕けました。


「水だぁー!水だぁー!」

 
水は地上に水柱となって噴き上げ人々は喜びに踊りました。


「ここにオアシスが生まれる。そうとも一日でも二日でもゆっくりここに逗留しようじゃないか!」


昇り始めた太陽の下で人々は湧き出る水に潤されながら、天幕を張り、食事の用意を始めています。

しかし少年は砂漠に、地下水に飲まれてそのまま帰ってきませんでした。
 

 
お釈迦さまはこう語り終えられ、
一人の比丘(修行者)にむかって、そのときの少年はそなたの前の世の姿である。
 
精進努力するとは、
今現になしつつあることをいうのであって、
努力したとか、精進してみようとか、
過去や未来について言われることではない。
今、この瞬間の努力が生死を超える道である。
結果のみを思い煩うことは
努力する力を弱めてしまうものだと言葉を結ばれました。
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