ちこういん

香り

仏さまの言葉(意訳)
 
生まれによって
賤しい人になるのでもなく
立派な人になるのでもない
 
行為によって
賤しい人にも
立派な人にもなるのだ
 

昔むかし、インドの国に〔ニーチ〕という《お便所の汲み取り》を仕事とする若者がおりました。


ニーチはまじめな青年で、毎日一生懸命に働いておりました。
それで、身に着けている布ばかりでなく、身体にまで臭いが染み付いており、仕事中はもちろん、そうでない時でも人々はニーチを避けて通りました。


ニーチは寂しく思いました。

友達が欲しいと思いました。
「そうだ!臭いの染み込んでない服を作れば良いんだ!」と・・

ニーチは、こまめに集めた布切れを綴り合わせて服を作りました。
「これで友達ができるかもしれないぞ」と、ひそかに胸を躍らせて町に向かいました。


ですが、人々はニーチを見ただけで、顔をしかめました。
いつも程、臭いがしない事に誰も気がつきません。
誰もが『ニーチは臭いに決まってる』と思い込んでいるようでした。

ニーチはいっそう寂しくなりました。
「僕が臭いのは誰のせいだ!誰のお蔭でみんなお便所で〔用〕を足せるんだ!」と・・

ニーチは、いつも《肥》を捨てに行く町はずれの広い原っぱを大声で喚きながら走りました。
それから、草原に《大》の字になって空を見つめました。

すると、どこからか声がしました。
「どうしたんだい、今日は機嫌が悪そうだね・・」

ニーチはびっくりして起き上がりました。
そこには、杖をついて痩せた老人が立っていました。

この老人はどうやら、目が悪そうでした。

「ワシは、ここでずっと鳥や動物達と同じように暮らしている。
お前さんはいつもここに、重い《肥》を捨てに来てるんだろう。

ご苦労な仕事だ。ワシはお前さんが羨ましい」

それを聞いてニーチはびっくりし、
「お爺さん、どうして僕の仕事が羨ましいのですか?」

と聞くと・・、

「それは、お前さんが《人の役に立つ仕事》をしているからだよ」

ニーチは驚き
『僕の事を、そんな風に見てくれている人がいたんだ・・』

と、それだけで彼の心はすっかり晴れました。

この老人
「今日はいつものような臭いがしないねぇ・・。
どうかしたのかい?」

と続けて尋ねました。

ニーチは
「いいえ、別に・・。はい、とても良い事があったんです。
お爺さん、有難う!」

とお礼を言って別れました。

それからニーチは、又、仕事に精を出しました。
すれ違う人が顔を背けても、ちっとも気にならなくなりました。

そんなある日、この町に〔お釈迦さま〕一行がやって来られました。
 

人々は皆そろって〔お釈迦さま〕のお話を聴きに行きました。
実はニーチも行きたかったのですが、

「僕の臭いがきっと皆の邪魔になる」

と思って行きませんでした。

そんなある日の事、ニーチが《肥》を担いで町の路地を歩いていると、向こうから《托鉢》の一行がやって来ました。

その中のお一人が〔お釈迦さま〕である事はすぐに分りました。
「何という尊いお姿なんだろう・・」

とニーチは心を打たれましたが、我に返って急いで横道へ折れました。

お顔を拝めた喜びをかみ締めながら歩いていると、又前方から〔お釈迦さま〕一行が歩いて来られます。


ニーチは又急いで道を折れました。・・が、この日は避けても避けても、何度も出逢ってしまうのでした。


慌てたニーチは、何度目かの出逢いの時、誤ってころんでしまい、《肥》を道にこぼしてしまいました。

〔お釈迦さま〕一行は、すぐ目の前まで来られています。

「ああ・・、大変だー!どうしよう・・。

お釈迦さまの通られる道が汚れてしまった!」

その時、困り果てているニーチに、〔お釈迦さま〕は近づき、その肩にそっと手を置いて言われました。

「避けることはないのだよ、ニーチ。

君のことは皆から聞いて知っているよ。
君は私たちと同じ《衣》を着ているではないか。

人の嫌う仕事にいそしむ心。それが君の《本当の香り》なのだよ」と・・。

ニーチは喜びに震える手を合わせると、〔お釈迦さま〕のお姿に、野原で出逢った老人が重なって見えたのでした。
 
おしまい。
 
 

『道風徳香一切薫』
無量義経「徳行品第一」
仏として示す道は風となり、備えている徳は香りとなってあらゆるものを薫じる

 
私たちも、よい香りを身に付けたいものですね。
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